Interview_tanida of Communication Design Lab 望月衛介・音楽と広告

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谷田一郎(CMディレクター)

【下積み時代の話】
望月:元々、子供の頃からCMディレクターになろうと考えていたんですか?

谷田:いえ。元々、広告の世界はCMどころか映像すら全く考えてなかったですね。子供の頃は特に何か取り柄のある子供でも無く、ちょっとだけ美術が他の子よりは点が良かったぐらいですね。

望月:では、絵を描きたくて美術学校へ?
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谷田:そうですね。学校に進学するにあたって全く得意な物が無かったので、唯一得意な絵の方に行こうと思って。イラストレイターとかになれたらいいなあと思ってました。

望月:そして、実際にイラストレイターになることは出来たのですか?

谷田:それが、なれなくて。笑 それで学校を卒業してからは、6~7年ほどグラフィックデザイナーをやってましたね。

望月:広告のグラフィックデザイナーですか?

谷田:広告とは違いますね。カレンダー作ったりとか。あと装丁とか。そういった広告よりかは、もっとちゃんとした……ちゃんとしたという言い方もどうかと思いますが笑、そういったグラフィックデザインです。

望月:それがいつの間にか映像を手掛けるようになるんですね。

谷田:ええ。ただ、その時はグラフィックデザイナーを辞めてもう一回絵を描きたいと思ってて。

望月:絵ですか。

谷田:6~7年仕事を勤めて、27,8歳の頃にやはり諦めきれずに。その時にイラストレーションよりもさらに大変ではないかと思われる絵画をやりたくなって。笑

望月:それはまた。笑 中々食べられなくなりますよね。

谷田:イラストレイターよりも、さらに壁が高いという道を。

望月:でも、それに挑戦しようと思ったんですね。

谷田:はい。それで実際に会社を辞めました。その後アパートを一個借りて、3,4年ほど絵を描いてましたね。

望月:それは、どんな感じの絵画なんですか?

谷田:現代美術が好きだったので、そういう訳の分からない絵を描いてました。

望月:ピカソみたいな……。

谷田:まあそんな感じですね。

望月:それは日の目が出たんですか?

谷田:それがですね、出ないんですよ。笑

望月:ふふふ笑 

谷田:思いの他、出なくてですね。笑 それで周りの友達がすごく心配してくれて。

望月:「お前、大丈夫か?」と。

谷田:はい。コンピュータのMacを使ってデザインをしたりしていたので、昔取った杵柄で、友達が仕事を回してくれるようになりまして。

望月:その当時からMacを使っていたんですか?

谷田:デザイナー時代に経験をしまして。

望月:その頃のMacというと、かなり初期のものですよね。

谷田:導入するのが早かったみたいなんですよ。

望月:SEとか、そんなぐらいの頃ですよね。

谷田:ええ。出たばかりの頃ですね。会社にいつのまにかMacがあったんですけど、多分一台200万とか……。

望月:当時はそのぐらい平気でしてましたね。

谷田:そうですね。で、まあそういった技術はあったんですね。すると、デザイナーの友達が「谷田、何ページかレイアウトやってよ」と声をかけてくれて。そういうことをやって、生活をしていたんです。

望月:すると、一応、本業は絵描きだったということですか?アルバイトがグラフィックデザイナーと。

谷田:本業といいますか……笑 まあ、建前上はそうなってたということですね。


【CGを手がけるきっかけ】
望月:そこから映像に切り替わっていくんですね。

谷田:ずっとそういったアルバイトをしていたんです。で、僕は当時、作品としてCGも作っていたんですよ。当時は、AppleのMacでCGが作れるようになったかならないかぐらいの時期で。それまでは動かせるものがUNIXかWindowsしかなかったので、Macを使っているデザイナーがCGを手がけるということは、あまり無かったんです。だからMacでCGが作れるようになって、面白いなと。そこで諸々CGを作っていました。いかにもザ・CGといった感じのABCDのタイポグラフィーを作ってみたり。そういったことを通じて、CGを学んでいったんです。

望月:当時はいわゆるCD-ROMといったものが出てきて、マルチメディアという言葉がすごく流行りましたよね。そういったものに食い込んでいくような作品だったんですか?

谷田:そうですね。まあ、今ではCD-ROMなんてどこにいっちゃったんだろうという感じですが……。笑 僕はCD-ROMが出てきた時に「ああ、これで作品を作ってプレゼンをして、仕事をもらおう!」と思ったんですよ。どういうわけだか。

望月:やっぱり生活しなきゃなと。笑

谷田:そこで、子供用のA to Zを作ろうと思ったんです。AはAppleみたいな。それを教材を作っている会社に「こんなこと出来ますよ!」って売り込んでやろうと思ったんです。でも、いざ考えてみると、AはAppleなんて物を作っても全然面白くないなと。

望月:なるほど。

谷田:そこで、大人用にしたんです。A,B,C……Cはコンドームみたいな。

望月:夜のA to Zですか!

谷田:ええ。それを全部CGで作って、出来上がったものを売り込みに行ったんです。ところが全然売れなくて。

望月:ふふふ笑
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谷田:友達なんかは「面白いよ!」って言って絶賛してくれたんですけどね。笑 

【CG映像へのデビュー】
谷田:映画監督の中野裕之さんという方がいまして。その人が(谷田氏の作品を)「面白い」と。まだその時はまだ中野さんとはちゃんとは面識がなかったのですけれども。またその時、ドンピシャのタイミングでテイ・トウワ君というミュージシャンがニューヨークから帰ってきたんです。

望月:ディー・ライトの。

谷田:はい。で、トウワ君のPVを作るという話になったんですね。そこでアンダーな感じの質感のCGを使って、彼のPVを作ったんです。

望月:それはディー・ライト名義ですか。

谷田:いえ、テイ・トウワ名義ですね。

望月:Technovaを出す頃ですか?

谷田:その時にTechnovaのPVを作ったんですよ。


望月:あ、谷田さんがTechnovaを作ったんですか!

谷田:ええ。TechnovaのPVを中野さんが監督で、僕がCGを担当したんです。中野さん曰く、「谷田を一ヶ月買い取ってPV作ればいいじゃん」ということになったらしく。前金で50万円ぐらい渡されて、その足で近くにコンピュータ屋さんに行きまして。で、Appleのコンピュータを買ったんです。

望月:なるほど。笑

谷田:貰った50万円で機材を揃えて作ったという代物だったんです。

望月:Technovaは大ヒットしましたよね。

谷田:当時としてはかなり新しかったですよね。

望月:それが映像デビューだったんですか?

谷田:一般的にはそのぐらいの時期ですね。

【CGクリエイターとしてのブレイク】
望月:それで注目されるようになったんですね。やはり、CGの依頼が沢山くるようになったりしたんですか?

谷田:思いもよらずに殺到するようになりまして。

望月:やはり、TechnovaのPVの効果ですか?

谷田:そうですね。あと、同じぐらいの時期にもう一つ手がけたものがありまして。僕の友達にクリエイティブディレクターの青木克憲君という男がいるのですが、彼が当時、僕の開いていたCGの個展を見たんですね。そしたら、「谷田君、ラフォーレ原宿のキャンペーンをやってよ」と。そこでムービーコマーシャルを作って、全体のキャンペーンもやったんです。そのキャンペーンというのが、当時バーチャファイターというポリゴンゲームが流行ってたんですが、それがバザールファイターになるというものでして。笑 

望月:バザールファイターですか。

谷田:格闘ポーズを取った女の人二人が戦ってるみたいな。笑 そんなような企画でムービーを作りましたね。で、同じぐらいの時期に中野監督とトウワ君にTechnovaに誘われて、ムービーを作ったという感じです。ですが、僕はあんまりCG好きじゃなかったんですよ。笑

望月:おっと。笑

谷田:やはり僕は絵描きになりたいんですよ、本当は。

望月:あ、なるほど!笑

谷田:絵描きになりたいっていう気持ちがまだまだ残っているんですよね。でも実際には自分が思ってもみない方向に事が進んでいくわけです。当時僕のCGの売りは「下手なCG」って事だったんですね。

望月:精密なCGというよりは、いかにもCGっていう感じのグラフィックですよね。

谷田:はい。UNIXだったら本当はもっとすごいのが出来るんだけど、Macだからこのぐらいというような感じも含めですね。それが自分の意に介さず思いのほか売れていっちゃうんですね

【楽曲紹介1】
望月:この辺りで一曲ご紹介していただきたいと思います。

谷田:では、椎名林檎さんの曲を。僕は当時、アニメも手書きで書いていたんですね。ボールペンで女の子の顔を二枚書いて、パラパラと動かすみたいな。で、クリエイティブディレクターの青木君がある日、「谷田君、カクテルバーのコマーシャルのプレゼンがあるから付き合ってくれ」と。それがアニメを使ったコマーシャルだったんです。で、音楽をどうしようかという話になったんですね。僕は当時、トウワ君とかそういったクラブ系の音楽ばかりを聴いていたので、一般的にキャッチーな曲を全然知らなくて。だから、六本木のWAVEにCDを買いに行きまして。

望月:ふふ。笑

谷田:プレゼンは次の日なのに。笑 当時売れていたのが宇多田ヒカルさんの一枚目と椎名林檎さんの一枚目だったんですね。だからその二枚を買ったんです。で、「どっちがいいかなあ」と。笑 で、椎名林檎さんの曲は良いなと。宇多田さんも好きですけどね。これは合うんじゃないか?と。なので、椎名林檎さんの曲を当てて、当日プレゼンをしたんですね。そしたら、それが何故かプレゼンを通りまして。椎名さんの一枚目のアルバムは、本当にその後も一年ぐらいアルバムから曲を7~8曲ぐらい使って、ずっとアニメーションを作ってたんですね。それは珍しいパターンではあるんですけどね。

望月:ではその中から一曲。

谷田:はい。「茜さす 帰路照らされど・・・」。椎名林檎さんの曲です。

【CM界への進出】
望月:先ほど自分の思いも寄らない方向にどんどん進んでいったというお話がありましたけれども、その後、谷田氏はCMを手がけていくことになるんですよね。

谷田:そうです。CGを作って、アニメーションを作ってとやっていたら、いつのまにかムービー(の世界)に来ていたんです。昔、今は「風とロック」をやっている箭内さんが博報堂にいまして。ある日、何を間違ったのか、その箭内さんから「CMを撮ってみない?」という連絡があったんですよ。グラフィックの仕事はそれまでにも何回かやっていたんですが、箭内さんは「谷田君ならCM出来るよ!」ぐらいの感じで。そのCMというのが、日産の車のCMで、安室奈美恵さんが出演するという代物でして。ほぼCMなんて手がけたことの無い人間に(箭内さんは)そういったものを……笑

望月:ちょっと解説させていただきますね。実は車のCMというのは、アングルとかがすごく難しくて、そう簡単には初めての人が手がけることの出来るものではないというのが、広告業界の定石なんですよ。

谷田:ええ。広告業界でも中堅かベテランの人で無いと手がけられないです。

望月:まずオファーが無いですよね。それがいきなり。

谷田:ええ。いきなり話が来まして。出来るかなあと不安に思っていたら、「大丈夫大丈夫。今回そんなに車ばっちり映さなくていいから!」って。笑

望月:ははは笑


谷田:そんなような企画だったらしく。実質、ちゃんとした実写を手がけたのは初めてだったんですけど、コマーシャルってスタッフの人数がもうすごいじゃないですか。平均100人ぐらいいますよね。昨日まで机の上でキーボードをかちゃかちゃやっていた人間が、いきなりそんな現場に行くことになっちゃって。結局、そのコマーシャルの現場で僕は安室さんとは一言も話さなかったですし、仕事もほぼ皆にやってもらったみたいな感じでした。伝える事柄も、全部カメラマンの人にやってもらったりとか。そういうのが、あまり得意じゃなかったんですよ。

望月:なるほど。笑

谷田:僕は後ろのほうから見てるだけみたいな。珍しい演出家だったと思います。そんな感じの仕事が何故かちょこちょこと友達から来まして。

望月:そして、そういった仕事がまた次の仕事を呼んでいったんですね。

谷田:そうなんですよね。そんなことが始まってから、「あいつ実は(CMも)撮れるんじゃねえか」ってことに、仲間内でなっていったようで。それはもう完全な間違いなんですけどね。

望月:そんなとき、谷田さんはどういう顔をしてるんですか?「おれもCM出来るからさ」みたいな感じですか?笑

谷田:普通に「いいよ!」って。怖いもの知らずだったんですかね。当時、全くCM自体を知らなかったので。単純に(関わる)人が多いなあって思ってました。

望月:それでも心のどっかに絵描きになりたいって気持ちはあったんですよね。自分を客観視しているもう一人の自分がいたりはしたんですか?

谷田:ええ。だからちょっと斜めなんですよね。CMディレクターになりたい。演出家になりたい。俺はこの道で行くんだ!っていう風に思っていたら、とても(仕事を)受けられないと思いますね。気合が入りすぎていたら。その点僕は、本当は俺は絵を描きたいんだ!って思いながらだったので……笑

望月:そうして谷田さんはヒットCMを手掛けるディレクターになっていくわけですよね。ちなみに今でも絵描きになりたい気持ちというのは忘れてはいないのですか?

谷田:流石に今は絵描きになりたいとは思ってないですね。笑 ただ、ちょくちょく絵をやりたくはなります。今でも僕の事務所には、いつでも絵が描けるようにキャンバスが置いてありますよ。まあ置いたまんまなんですけど。笑


【CM制作におけるスタンス】
望月:数ある作品の中でも、難しかったものや、これは成功したな!と思えるような印象的だった作品はありますか?

谷田:やはり始めたばかりの頃に手掛けたものが印象的ですね。それこそ、先ほどあげた箭内さんからのものもそうです。あとかなり前になりますが、佐藤可士和くんと出会ったのもその頃でして。その際にやった木村拓哉さんのエステのCMも印象に残ってます。他にも色々やりましたね。中山美穂さんの口紅のCMとか。それらは全て、僕のCM人生が始まってから半年ぐらいの間にやったんですよ。

望月:CM監督と言うと、まずは広告代理店やプランナーの人が作ったコンテを渡されるわけじゃないですか。谷田さんは、その渡されたコンテの通りに作っていこうと考えてらっしゃるのですか?それとも自分なりに「ここはこういう風に変えてみよう」とか「こうしたらもっと伝わるんじゃないか」というように工夫を加えていくのですか?

谷田:僕はCMをやり始めてから10年から15年は経っているので、今はあの手この手を使って少しでも伝わるようにやってますね。ですが始めた頃は違いましたね。皆さまご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、企画コンテって絵も付いているんですよね。絵も付いていて、言葉も付いていて、タレントさんの表情も全てコンテに出ているんです。それを見ると、もう出来てるじゃん!って思うんですよね。笑 最初の頃は、演出って何をすればいいんだろうという感じで。ただ、勿論企画コンテというのはただの流れで、それをさらに感動的にしたいのか楽しくしたいのか、とにかく元気な感じを出したいのかといったことも、ちゃんと演出家が決めていかないと、ちょっとうやむやな感じに作品がなってしまうんですよね。

望月:その中で、大切にしている部分やこだわっている点というのはどういった点ですか?

谷田:自分に来る仕事の方向性というのはありますが、最近の僕の場合は、(作品として)見た人がぱあっと気持ちよく元気になれるようなものが増えてきているみたいなんですね。必然的にそういった方向性が決まってくるというか。始めたばかりの頃はどちらかというとサブカル的というか、少しオシャレな感じのものや、マイナーでもエッジの効いたものが多かったんです。でも今は直球で、ストライクど真ん中にすぱーんと投げるようなものが多いんですよ。

望月:でもそういった作品と本当の自分とは、話を聞いてきた限りでは違うような気がするのですが。

谷田:根っこは違いますね。もうちょっと斜めな感じですね。でもストライクずばーんって感じの作品を嫌々やっているのかというとそういうわけでもないんです。楽しくやってますね。不思議なものだと自分でも思うのですが。

【伝わるCMとその難しさ】
望月:これまで手掛けた作品の中で、これはしっかり相手に伝わり、理解して受け止められ、拡がって行ったと思われた作品はありますか?

谷田:少し地味な例ですが、「キュキュット」という家庭用の洗剤がありまして。そのCMが人形劇で、お母さんの人形がお皿を洗っているというものなんですね。それが始まってからもう7~8年になるのですが、じわじわと売れてまして。最近では1位2位を争う人気CMになったというような話もあって、子供たちがCMの歌を歌ってたりするようなんですよ。だから、そういった話を聞くとじわじわとでも広まっていくものなんだなあと思いますね。

望月:やはりそういった話を聞くと嬉しいなあと感じますか?

谷田:そうですね。お母さん同士の話の中で、僕がキュキュットのCMをやってますって言うと、え!って驚かれたりとか。そういったのがあるとやっぱちょっと嬉しいですね。笑

望月:シリーズ物の作品には、シリーズ物ならではの難しさもありますよね。

谷田:シリーズ物は本当に大変です。特に一本目が受けると、二本目以降は大変ですね。

望月:それは周りの期待が高まるからですか?

谷田:周りの期待は勿論あります。あと特に二本目は、ばあんと行かない時って良く分かるんですよ。上手くまとまりはしたけど、一本目よりもパワーが無いなあとか。そういったことには特にすごく気を付けてやってますね。

望月:映画にも同じようなことがありますよね。興行成績自体はPART2やPART3の方が良いのだけれど、実は本当に良いアイデアや情熱は一本目にこそ詰まっていたり。

谷田:似ているところはあるかもしれないです。あと、商品自体が伝えたい事ってそんなに大きくは変わらないじゃないですか。お水だったら、伝えたいのは「美味しいお水ですよ」ってことじゃないですか。同じメッセージを伝えると言う事を手を変え品を変えやったりするので、その次その次前回を越えていくというのはすごく難しいと、唯一その点に関しては思っています。

【CM制作とCG】
望月:具体的な商品について、CM制作の難しさを感じたものはありますか?

谷田:先程のキュキュットを例に挙げると、キュキュットのCMは人形劇なのですが、お皿を洗うシーンなんかはフルCGでやっているんですね。だから、例えば水道の水はCGなんです。

望月:え、そうなんですか。すると、お皿を洗う手もCGですか?

谷田:手はコマ撮りです。手は人形のコマ撮りで、水はCGで、お皿はミニチュアです。だからミニチュアとCGが混ざってるんです。だから少し映像が不思議な感じがするんですね。実写の水のぱしゃって感じよりも、もっと水のばあっとした感じが出ていて……。こんなことを果たして言ってしまっていいのか分からないのですが。笑

望月:シズル感というやつですね。

谷田:そうですね。

望月:なるほど。もうそこまでCGが普通の映像の中に入り込んでいるんですね。

谷田:結構普通に入り込んでますね。車の映像も結構CGだったりしますよ。

望月:実際に撮影していると視聴者は思っているものでさえ、実は……。

谷田:実はCGになってますね。全編がCGでは無いとしても、途中途中大変なところはCGにするといったこともあります。普通に見ていたら、多分CGだとは分からないんじゃないかなと思います。

望月:監督として、「ここはCGにしよう」と指示を出したりはするのですか?

谷田:ええ。例えば全編をCGにするとあまりにCGっぽさが出てしまって醒めてしまうなと思ったら、実写を入れたりとか。基本的に映像はファンタジーの世界を作るにしても、実写を基本に考えるんですよ。撮影で使うレンズはワイドレンズにするか、望遠レンズにするかとか。奥の映像がぼけてて手前が云々と話し合ったり。合成すれば何でも出来るんですけど、基本はやはり実写なんですよ。例え巨人や怪物が出てくる話であったとしても、「それが本当に出てきたらこうなるよね」というのを考えながら作るので。

【楽曲紹介2】
望月:それではこのあたりで、次の一曲をお願いします。

谷田:最近やった「モバゲー」というコマーシャルがあるのですが、そのコマーシャルの曲を。TOWA TEI with YURICOで「MARVELOUS」。


 【仕事の「割り切り方」】
望月:CMディレクターの仕事とは、プランナーから発注されたものを形にするという事だと思うのですが、フラストレーションが溜まることはあったりしますか?

谷田:特に怒ったりすることは、僕はあまり無いですね。フラストレーションがあまり貯まらない性格なのか、よく分からないのですが。笑 元々すごい企画をやりたい人や、端から端まで全部見たい人というのも演出家には沢山いて、そういう人は大変だなと思います。

望月:それが割り切れる何かがあるのですか?

谷田:やっぱりね、僕は絵描きに……。

望月:やはりそこですか!
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谷田:まあ今は失せてますけどね。やはり広告の企画って特殊で、普通にストーリーを考えるのとは違うんですよ。この商品はどういう風にしたらいいんだろう。どういったロジックで考えたら、ばしっと来るものになるんだろう。そういうようなことを考えなければならないので、そんな簡単には出来ないですよ。プランナーという職種があるというのは、そういうことで。プランナーの人が「ちょっと演出家やってよ」と言われても、それはやはり別の仕事という気がしませんか。

望月:確かにそうですね。広告の仕事ってクライアントを説得するというのも大切な仕事の一つじゃないですか。そこも専門に考えなくてはいけない重要な部分ではありますよね。最終的なアウトプットも勿論大事ですが。

谷田:やはりチームワークでしか仕事は出来ないですよね。僕よりもプランナーの人は大変ではないかと思うのですが、結論に行きつくまでにかなりの紆余曲折がある仕事なので、そこに一々フラストレーションを感じていたら仕事として成り立たないんじゃないかなと思います。

【趣味の話】
望月:谷田さんは、木彫りを為さるんですね。

谷田:二年ぐらい前から、何を思ったのか毎日趣味のようにやっていたんですよ。チェーンソーを買ってきたりして。

望月:チェーンソーでやるんですか?

谷田:大きいものはそうです。ババババババって。

望月:それで大体の形を整えたりとか。

谷田:そうです。チェーンソーを使って、マンションの一室で。

望月:マンションの一室でやるんですか!それ、近所迷惑じゃないですか。笑

谷田:一階が僕の事務所で、その上が自宅なんですよ。だから多少遮音されてはいまして。

望月:なるほど。笑

谷田:もう本当にどういうわけか毎日木彫りしてたんですよね。展覧会もやったりとか。でもぴたっと辞めちゃったんですよね。

望月:それは何か理由があってのことですか?

谷田:それが分からなくて。でもぴたっと辞めちゃったんですよ。ただ、熱意がふっと消えてしまって。自分は飽きやすい性格なのかなと自問自答したりもしましたが、その後も色々と物を作ったり、絵を書いたりはしていたので、何かを作ること自体は続けてますね。

望月:木彫りの代わりなのか分かりませんが、最近は料理に凝っていらっしゃると。

谷田:料理は、すごいですよ。

望月:もうプロ並みにやってらっしゃるとのことで。

谷田:ただ、それまで全く料理をやっていなかったんですよね。僕は今年で45歳なんですが、去年一昨年ぐらいから料理を始めたんです。44年間料理をしてこなかった人間がいきなり覚えたものだから、もう性質が悪くて。

望月:料理は一人で黙々と作るんですか?

谷田:友達に料理仲間がいまして。土曜や日曜にその友達と僕が料理を作って、それを家族に食べさせるという会をしてるんです。

望月:大丈夫ですか?笑 家族の方はちゃんと美味しく頂いてるんですか?

谷田:もう現場は美味しいの嵐ですよ。

望月:おお!笑

谷田:料理にハマるじゃないですか。そうすると、続くんですよ。カレーだったらずっとカレーなんです。

望月:ちょっと違うカレーを作ってみようかな、みたいな。

谷田:味を追い求めて。すると、一週間ずっと食卓にカレーが出てきたりとか。そこで多少苦情が出ているらしいと、噂では聞いてますね。

望月:すると、やっぱり谷田さんにはクリエイティブな部分があって、仕事としてはCMディレクターを務めていらっしゃるってことなんですね。その点、しっかりとバランスが取れているというか。

谷田:いまやもう料理も含めて、バランスなのかもしれないですね。

【今後の活動について】
望月:今後、こういった映像作品を手掛けていきたいとか、こういったプランでやっていきたいといったことはありますか?
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谷田:映像を始めた頃は、自分でhigh8とかDV、今ですとハンディカムを使うと思うのですが、そういったものを使ってよく自分で映像を撮って、コンピュータの中に入れて作品を作ったりしていたんですが、仕事をするようになってからそういったことが全く無くなって。つい最近になって、友達がやっているファッション誌のためのムービー作品を撮ったんですけど、何か久しぶりでしたね。

望月:そういった手作り感のようなものがですか?

谷田;そうですね。昔やっていたような。

望月:最近は機材が安くなったから、そういったことをやる人がすごく増えていますよね。

谷田:今はすごく機材が良くて。一眼のムービーを撮れるものが沢山出ていて、振動も出るからフィルムみたいな映像が撮れるんですよ。すごく綺麗に撮れるので、「そこでやっても無理だな」と思いまして。なので僕は今回、画質の悪い5cmぐらいのトイカメラを使って撮影したりしましたね。今はクオリティ的には全て足りているので、そこからさらに何をやるかといった感じがありますね。

望月:そこで培ったものを、CM作品にも反映をさせていったりとか。

谷田:それはちょっとありますね。例えば、色のトーンとか。普通コマーシャルだと、物凄くアンダーなトーンを使ったりはしないですよね。やっぱり明るくて綺麗なトーンが多い。その点、自分の作品だと自由じゃないですか。だから自分の作品を作ると、光の感じで「これは、こういった感じになるんだ」というような発見が多々ありますね。

望月:なるほど。これからも是非、素晴らしい作品を作って頂きたいと思います。
本日のツタワリストは、CMディレクターの谷田一郎さんでした。ありがとうございました。

谷田:ありがとうございました。

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